日本の伝統に触れる、藍染体験

藍白(あいじろ)、浅葱(あさぎ)、青藍(せいらん)、深縹(こきはなだ)……。

藍は、濃淡の色合い一つひとつに色名が付けられ、「藍四十八色」という表現があるほどに呼び名が多い色です。それほど、日本人に古くから愛されてきた藍色。

今回、昔ながらの技法で藍染めを続ける「壺草苑(こそうえん)」でgentenスタッフが藍染めを体験してきました。
東京青梅市にある「壺草苑」では、誰でも気軽に藍染めを楽しむことができます。少し遠出して、いつもと違う休日を過ごしてみませんか。


暮らしに根付く藍の色は
タデアイの葉から

浴衣や作務衣など身に付けるものはもちろん、のれんや風呂敷に至るまで日本人の暮らしに根付いている藍という色。
明治時代には、日本を訪れた外国人が、藍染めの衣服を身に付けている人が多いことに驚き、「ジャパン・ブルー」と表現しました。
とはいえ、藍染めは日本だけのものではなく、古代エジプトをはじめ、今でもヨーロッパ、アフリカやインドなど、世界各地で愛されています。


乾燥させたタデアイの葉とスクモ。

日本の藍染めでは、おもにタデアイという植物の葉が用いられています。


壺草苑で使用しているスクモ

タデアイの葉を乾燥させ、発酵したものをスクモと呼びます。壺草苑では日本一の藍の産地、徳島県のスクモを使用しています。徳島のスクモは「阿波藍」と呼ばれ、江戸時代より品質の高さが評価されてきました。

藍は種まきから収穫、発酵まで大変な作業を経て、約1年をかけてスクモになります。発酵の過程では、藍の温度が60度を超え、冬でも湯気のたちこめる中で職人は藍の山をかき混ぜています。
このように手間がかかることや化学染料の台頭から、伝統的な技法を受け継ぐ藍師は年々減ってゆき、徳島県内では現在5軒ほどと希少な存在となっています。その1軒から毎年貴重なスクモを譲り受け、壺草苑の藍染めは生まれています。



生きた染液を“お世話”しながら
人にも環境にもやさしい染め物を

「壺草苑」では、藍染め製品の製作・販売の傍ら、体験を週末に行っています。

工房の扉を開けると、広がる藍の香り。

中央には、藍の染液がたっぷりと入った深さ約1.3mの壺が並んでいます。

工房の奥では、何人もの職人たちが作業をしていて、心地よく水の音が耳に届きます。

現在では、化学染料や薬品を使った染め物が主流になっていますが、壺草苑がこだわるのは、江戸時代から続く日本古来の技法。

「天然藍灰汁醗酵建て(てんねんあいあくはっこうだて)という技法です。化学薬品は一切使わずに、自然界からとれる原料だけを使っています」と、工房長の村田徳行さん。

染液の原料はスクモを含めて5つ。スクモ、石灰、灰汁(あく)、日本酒、小麦の外皮であるふすまだけです。
スクモに含まれる、水に溶けない「インディゴ」が微生物の還元作用により水溶性となり、染色することで美しい色を生み出します。

壺の中の染液は生きていて、発酵菌が活性するよう、休むことなく1日に1回かき混ぜるなど“お世話”が必要です。壺を床に埋め込んでいるのも、外気温の変化をダイレクトに受けにくいようにするための工夫。


「藍の華」と呼ばれる“あぶく”が出るのは、染液が生きている証。二次発酵によって色素が溶けだして花のように盛り上がってきます。

染液をつくり始めてから1週間から10日ほど経つと、ようやく布を染められる状態になります。できてすぐの染液は勢いがあり、染まりが良いそうです。

「藍染めの液は強いアルカリ性ですが、自然の原料だけを使っているので身体にはまったくの無害なんですよ。だから私たち職人は、素手で染めの作業をしています」と村田さん。
人にはもちろんのこと、環境にもやさしい日本古来の藍染め。壺草苑では、役目を終えた染液を畑にまいて肥料にしているのだとか。藍染めは、循環型の染め物なのです。



染液の中で繰り返す丹念な手しごと。
空気に触れて色を変えるおもしろさ

それでは、いよいよ染めの作業です。

今回染めるのは、綿素材のハンカチとストール。そして持ち込んだgentenの「サスバッグ」2型です。サスバッグ1型はシンプルに藍染め一色で。もう1型とハンカチ、ストールは、絞り染めに挑戦します。

染めるものによっては、乾いた状態で染液が浸透しにくいため、はじめにお湯に浸けて繊維の奥まで湿らせます。そのあと軽く脱水してから、染液に浸けていきます。

絞り染めは、タイ(Tie=縛る)、ダイ(Dye=染める)でタイダイとも呼ばれます。その名のとおり、縛ってから染めるもの。布の一部をつまんで紐や輪ゴムで縛るなどして、布に染液が浸らない部分をつくることで模様を作ります。
絞り染めは、思わぬところに染液が入り込んだり、にじみによって予期せぬ模様ができたり。染め上がってみないとわからないからこそおもしろく、偶然がもたらす美しさがあります。


準備ができたら、布を染液に3~8分ほど浸け込みます。
染液に入れてからは、手で揉みほぐして布の空気を抜き、縫い代の部分など布が重なっているところは、広げるようにして満遍なく浸けます。

しっかりと水気を絞って引き上げます。染液から引き上げた直後の布は茶や緑っぽい色味ですが、空気に触れることで酸化して、次第に鮮やかな青色へと変わってゆきます。布を広げて空気に触れさせ、3~8分ほど置きます。
染液に浸け、空気に触れさせる工程を何度も繰り返すことで、段々と濃い色に染まってゆきます。

生地に厚みのあるサスバッグは、長めに浸け込み、6回ほど作業を繰り返しました。慣れない姿勢で行うため、想像以上に根気のいる作業です。ハンカチやストールなどの薄い素材の方が短時間で染まりやすいため、初心者にはおすすめです。

染め終わったら水ですすぎ、絞ったものを持ち帰ります。
その後、自宅で一晩ほど水につけ、乾かしたら完成です。

gentenスタッフが染めたハンカチとストール、サスバッグ。
それぞれの濃淡と二つとない文様を描き、個性豊かな仕上がりになりました。
自然のものだからこその、藍の奥行きのある表情が魅力です。

江戸から続く伝統的な藍染めの魅力。
手しごとの積み重ねから生まれる美しさに心を打たれた体験でした。


gentenでも、5月に徳島の美しい藍染めを施したお財布「深縹(こきはなだ)」が登場します。
※壺草苑ではなく、徳島の工房で染めています。

また「色あいコレクション」として、新作のメッシュバッグ「網代」、人気のトートバッグ「セルビッジトート」やがま口小物「アンティーコ」からもネイビーの色味が登場しますのでご期待ください。


■店舗情報
壺草苑

住所:東京都青梅市長渕8-200
営業時間:10:00~18:00
定休日:火曜日

藍染体験
金・土・日・祝日のみ
10:00~/13:00~
費用 2,200円(税込)~
※2024年5月より、2,750円(税込)~となります。

※3日前までに電話または公式HPより要予約
※詳細はこちらをご覧ください。

2024年4月5日公開