植物のある暮らし 第1回「桜」

大ぶりな枝を大胆に切って。
食卓で愛でる春のしつらえ。

春の花といって、誰もが連想するといっても過言ではないのが、桜。
大空にその枝を伸ばし咲き誇るさまは、見るもの全てを魅了する存在感があります。

そんな桜を暮らしの中に。
大きな枝をそのままに、玄関先に生けるのも素敵ですが、薄紅の可憐な花を間近で楽しめるよう、あえて小さく生ければ、食卓に春がやってきます。

今回は、桜を食卓に取り入れる手軽なアレンジのコツを、新宿御苑「リリー オブ ザ バレイ サロン ド フルール」の橋本美穂さんにお伺いします。

切花で売っている桜は、街に咲くソメイヨシノとは違う品種。彼岸桜や東海桜、啓翁桜といった品種があげられます。

「大きな枝のものなので、枝切りばさみでないと切れないと思ってしまう人が多いのですが、小さく生けるのであれば、料理用のはさみでも十分」。と橋本美穂さん。

花器の長さに合わせて枝を切ったら、根元に十字に割りを入れるのが、枝ものの花持ちを良くするコツだそう。長く楽しめるように、ここは丁寧に。

「食卓に生けるなら、徳利などを使って。生け方のコツは、長さを揃えず、それぞれが違う長さになるように気をつけることと、一方に流れを作ることです。」

長い枝を生けて方向を決めたら、あとはバランスよくすき間を埋めるように生けていきます。


 

葉桜とともに生けて
命のうつろいを愛でる。

桜は、涼しいところに飾り、こまめに水を変えると、比較的長持ちします。

「花が散ると葉が出てきますが、葉桜の初々しい緑もぜひ楽しんでいただきたいです。咲いている桜に少し生けるだけで、風情が変わります」。

散りゆく花びらも、新たな息吹も、うつろう命をそのままに最後まで楽しみたいですね。



季節の花が引き出す
桜のもうひとつの顔。

もちろん、桜以外の花とともに生けても。
たとえば、同じ季節の花であれば、同じ枝ものの小手毬や猫柳と。
すると、桜の持つ、別の表情を垣間見ることができます。

「たとえば、お酒とおつまみを少し、という食卓ならば小手毬を。一緒に生けることで曲線を作り、食卓を華やかに見せてくれます」。

しなやかな細い枝の小手毬を生けると、華やかでありながら、その緑も相まって甘くなりすぎず、引き締まった印象に。

「料理の品数が多いときは、邪魔にならないように直線的に。猫柳を一緒にいけると自然と直線的な流れが生まれます」。

シャープなシルエットでも、ふわふわとした綿毛に包まれた猫柳の愛らしい姿は、桜を可憐でやさしい印象に。春の訪れを感じさせてくれます。



少しの桜で演出する
お花見気分の食卓

桜が手に入らなくても、ちょっとした工夫で桜の雰囲気を楽しめるアイディアも。
桜をかたどったランチョンマットを折敷に乗せ、塩を振って形をつけます。

ランチョンマットを外せば出来上がり。玄関先などに生けるのであれば、塩ではなく、重曹でもいいかもしれません。

折敷を1枚敷くだけで、生けた花の印象もガラリと変わり、艶やかな雰囲気に。

小鳥がついばんで落とした桜の花を、氷の中に閉じ込めて飾るのもお洒落です。桜湯に使う桜の塩漬けを使ってもきれいにできます。氷が溶けて水に浮かぶ桜をゆっくりと楽しむのも粋ですね。

身近なもので作る
花のある生活。

「花器やはさみなど、道具は身近にあるものでいいんです。季節の花に親しむことで、毎日の生活を大切にしてもらえる。そんなお手伝いができたらいいなと思っています」。と橋本さん。

ささやかでも、花を生ける。植物に水をあげ、手入れをする。そんなひとつひとつのことが愛おしく、生活がやすらかに感じられるのは、同じ生き物と向き合っているからかもしれません。

橋本美穂(はしもと・みほ)
第一園芸ホテルオークラ店に勤務。 その後、ヒビヤフラワーアカデミーでのインストラクターを経て2003年独立。リリー オブ ザ バレイ サロン ド フルール代表。

リリー オブ ザ バレイ
東京都新宿区新宿1-3-2 サンクチュアリ新宿御苑アネックス1F
03-6808-2555
営業時間 平日:12:00~19:00 土日祝:11:00~17:00
定休日:月曜
公式サイト:http://www.suzurankai.com/