【蔵前散歩】気ままに商店や神社を巡る

「目的は、あんまり持たずに」
いつからかはわからないけど、これが散歩の信条。

gentenのバッグをつくることを生業とする、私“S”は、その仕事柄、蔵前界隈へよく足をはこぶ。

ここは、東京の物つくりの、縁の下の力持ちのような街。
「今日は、もうすこし周辺をさまよってみようかな。」
そう。思い立ったが吉日。

蔵前散歩の忘歩録、書き留めておくことにします。


未来への手紙を託せる、不思議な場所。
「自由丁」

浅草線の蔵前駅より、精華公園周辺へ。
お気に入りのコーヒーを買い込み、往来の陽だまりをたどりながらの、裏通りめぐり。

ほどなくして横目に飛び込む、伝言板のような。
「え……?」
「ほんとは、わたし??」

「自由丁」
未来へ手紙を書く、
本を読む、勉強する、
仕事する、少し休む、
悩む、考える。

自由を過ごせる場所。
だから、「自由丁」ということか。


当惑。
お店に入る。

いろいろな思いを言葉に連ねた葉書や、
言葉にならない思いを、かたちや色であらわしたようなメモ描きが。

「一年後のご自身に向けて、伝えることを綴る手紙を書いてみませんか?」と店長。

どうやらここは、人々の言葉や思いを、手紙や書簡として、そっと保管してもらえる場所でもあるらしい。

店長の言葉に誘われ、用意されたはがきに、いざペンを走らせると……。

一年後の自分へ、
したためることって……。

「書き終わりましたら、最後に封蝋を溶かして、ご自身で封筒に封をしていただきます。お好きな四色をお選びください。」

一度開封すると、粉々にくだけて二度と元には戻せない、昔ながらの封蝋で静かに閉じる。

話を聞くと、この「自由丁」は、もともとはメールサービスが始まりなのだそう。
実店舗を開き、さまざまなお客様が、その人なりに時間を過ごし、その人なりに思いを寄せたり、なにかの拠りどころにしていたり。

「店に訪れる人たちと触れ合うことが増えてゆくたび、“言葉を届ける”ということの実感がわくようになりました。」と店長。


帰り際、店長が机の引き出しから静かに取り出して見せてくれた、こなれた風情のペンケース。

「留学する前に、友達からプレゼントでもらったgentenのものなんです。これ、七年目なんですよ。」

ものには、言葉は書けない。
だけど、思いをそっと託して伝えられることも、少しはある。

そんなことを気づかされながら、店を後にした。

■自由丁
Instagram 

一年後の自分へ手紙を書いたり、持ち寄った本を本棚の本と交換したり、ゆっくりと過ごせるお店。

住所:東京都台東区蔵前4-11-2

営業時間:
水〜金: 13:00~18:00
土、日、祝日: 11:00~18:00
※予約可
定休日: 月、火

今回注文したメニュー:
『TOMOSHIBI LETTER 一年後の自分へ手紙を送るレターセット(2,640円)』
自分宛に送る「ポストカード」、その手紙を書くきっかけとなる質問が書かれた「リフレクションカード」、オーナーでエッセイストでもある小山さんによる「エッセイの一編」、ドリンクがセットに。5種類のテーマから手紙の内容を選ぶことができ、選んだテーマによってドリンクが異なる。



「自由丁」を離れ、すこし先の鳥越神社への道すがら。 

窓の枠が。
ちょっと素敵な弧(こ)と余白。
気になる。

「毎日ながめる場所だろ?四角四面ってのは素っ気ねぇからさぁ」
と、大工が気を利かせて細工をしたのかどうかは、不明。



都会の中に佇む、
「鳥越神社」を参拝

凛とした空気。
鳥居をくぐると、すっと背筋が伸びる。
神社を訪れると、霞が晴れるような爽やかな心持ちになる。

日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀るご本殿。
鳥越神社は1300年以上の歴史がある古社だ。

長い歳月の中でどれほどの人々を見守ってきたのだろう。

時代が移り変わり、先へ先へと進んでゆく。
一方で変わらないものの姿に、時として心が落ち着く。

参拝の後はおみくじを。
ここにも昔ながらの風情を感じた。

■鳥越神社
Twitter
Facebook

住所:東京都 台東区鳥越2-4-1
拝観時間:9:00~17:00 年中無休



下町情緒溢れる、
懐古な商店街「おかず横丁」

今もむかしも。
変わらぬ笑顔で、お出迎え。
ものづくりの街の暮らしを、胃袋をささえてきた「おかず横丁」。

どこからともなく流れる、昭和歌謡を背に受けて。
情緒を醸す、店先の風情。
懐のふかさ。

「カエル…さん?ですよね」
慈しむような面持ちの、かえる。
聞いたところ、交通の往来が増え始めた昭和30年代。
“無事にかえる”ことができるように、と、当時の商店街の会長さんが安置したのだそう。



歩みを進めると。
なんだか惹かれる景色のお店。
「あ、今日はお休みで。」
仕方ないので、私もひと休み。
ちょっと椅子をお借りして。

ここは、ドイツを中心とした西洋骨董などを取り扱う店らしい。
ときどき売っているドイツパンも評判とのこと。
いつか、また開いていたら。

■Doremifa
Instagram

住所:東京都台東区鳥越1-17-3

営業時間:
水:14:00~18:00
金土日:12:00~18:00
定休日月火木



丁寧につくられたものならではの
おいしさ。
「郡司味噌漬物店」

「おかず横丁」の一角にある「郡司味噌漬物店」。

昭和32年創業の老舗。店頭に並ぶ漬物に、ついつい誘われて。
気づけばのれんをくぐって。

所せましと並べられた味噌樽の景色に、しばし感嘆。
使う材や塩の出元、寝かせの時間。
お国の数だけ、役わりの分だけ味噌がある。

懐のふかさがただようお店と、実直を絵にしたような若夫妻と。
味噌ソムリエ(ミソムリエとも??) の称号をもつ旦那さんに、おすすめ味噌をいくつか味見させていただく。

いずれも美味、そして、滋味至極。

二十数種ある中から、二種をいただく。
玄米のみでつくられた、食感と風味が際立つお味噌と。
麦のみをじっくり時間をかけて寝かせた、やさしいお味噌と。

味噌の次は漬け物。
「昔から味噌がおいしいところでは漬物もおいしく漬けられるといわれているんですよ」と奥さん。

特におすすめだという「べったら漬」。
江戸の味を受け継ぐ、大根の糀(こうじ)漬け。
使っている大根は国内の契約農家と土づくりから一緒に行っている。

素材へのこだわり。ものづくりへの熱度。
衣と食で畑は違えど、伝えたいことは意外と同じようなことなのだと、おぼろげに実感。

夏川さん夫妻。仲睦まじい笑顔。
そして、そろって満面の笑顔のようなgentenたちの姿も。
意外な出会いと、めぐる縁。

深く、おだやかに味わいが増してゆく味噌のおいしさ。
時を過ごすごとに、年を重ねてゆくごとに。
人の縁も似ているようで。 

■郡司味噌漬物店
ONLINE SHOP
Instagram

住所:東京都台東区鳥越1丁目14番2号

営業時間:
月~土:9:00~18:30
定休日:日、祝日、第2と第4月曜日

人気のみそ5種類を詰め合せにしたセット(4,980円 送料・税込)もおすすめ。



サスバッグ(中)

「いやいや、手提げ袋はおかまいなく。」
急な散歩土産の持ちはこび。
手前味噌ながら、サスバッグ。

さらば蔵前。
また、いつか。



アマーノ トートバッグS 

今日の散歩の道連れ。
おつかれさま。

2022年2月11日公開