2021年春夏コレクションに向けて
雄大な自然に育まれた富山の魅力

※2021年春夏のカタログはこちら

富山を原点とした2021春夏のものづくり。背景となる富山の自然や伝統文化の奥深い魅力をお届けします。


富山出身の岡田社長が語る、
富山の魅力

日本の伝統技術や地域に根付いた文化を新しい形で受け継いでいきたい。
gentenでは2018年の春夏より、日本の伝統文化に着想を得たプロダクトをお届けしてきました。
第一和は「つむぐ」をテーマに、奄美大島の染めや柄など鹿児島県の伝統美に注目したシリーズを展開。
2019年、第二和は「粋」をテーマに、東京=江戸の文化が育んできた切子や組紐など、職人の手仕事の美を取り入れたシリーズを展開。
翌2020年は第二和の続編として「ODORU」をテーマに、東京=TOKYOの多様性から溢れる自由な躍動感を表現したシリーズを展開。


そして、第三和となる今回は、“創”の異体字である「刱-HAJIME-」をテーマに、富山に根付く文化や雄大な自然から着想を得た、五感を揺さぶるシリーズをお届けします。

富山県高岡市出身でゆかりのある岡田社長に富山の魅力を伺いました。



立山連峰に抱かれた、美しく、寡黙な大地から

どこまでも続く壮麗な景色。黒部峡谷を挟んで西側に連なる「立山連峰」は富山を象徴する景色のひとつ。自然への畏敬の念を感じるその姿は、古くは信仰の対象として崇められてきました。

写真は雨晴海岸(あまはらしかいがん)から臨んだ立山連峰の景色。日本の渚100選に選ばれる景勝の地として知られています。

「立山連峰は天気が良いと、どこにいても目に入りますし、県の小学生の多くは、登山を経験します。富山の印象といえば、まず、この立山連峰の壮大な風景。私も四季折々で自然の美しさに触れながら育ちました。」(岡田社長、以下同様)


その“富山の顔”ともいえる立山連峰をモチーフにしたのが「フウチ」。
悠々と連なる尾根。おだやかに人々を包み込む姿を凹凸のある刺繍で表現しました。




自然のありのままを受け入れて、活かす

自然は美しい反面、時に厳しい一面も。
「富山は山々に囲まれ、冬は積雪、夏は高温と厳しい気候の土地です。
“富山の薬売り”は、厳しい環境の中で生計を立てるため、江戸時代に生まれたもの。全国を隈なく歩いて回って、家庭に薬を置かせてもらい、使った分だけお支払いいただけば良いですよと…。その当時、離れた土地を訪れることは今とは比べものにならないほどの苦労がありました。見知らぬ土地で商いを営むには、信頼が一番。そこでお客様を第一に考え、利益は後回しにしたのです。誠実で、勤勉、打たれ強い、富山の県民性が表れているなと感じます。」

「富山はチューリップの球根の生産量も日本一。このチューリップの栽培が始まったのも、実は生きる知恵から。稲作農家が多い富山。雪が積もる冬の間に何か栽培できないかと、寒さに強いチューリップの球根を大正時代に植えたことが始まりだとか。雪の保水性や土壌がチューリップの生育と相性がよいみたいです。
富山の人々は、自然を生かし、うまく工夫して暮らしてゆくことに長けていますね。」
今では砺波平野(となみへいや)をはじめ、県内のいたるところでチューリップ畑を目にすることができます。


鮮やかに広がるチューリップ畑から着想を得たのは「トゥリパーノ」。冬を耐えぬく生命の力強さと美しさ。命を育む自然への感謝。春の光が差し込む模様にその想いを込めました。




「伝統」と「革新」が交差する、富山の鋳物

昔からの産業や文化がしっかりと根付き、長く息づいているのも富山の特長。
中でも鋳物は400年近く続く富山の伝統産業。富山県高岡市で製造される鋳物の伝統工芸は“高岡銅器“と呼ばれ、国内外から高い評価を受けています。

「加賀藩主、前田利長が高岡城を築いた際、7人の鋳物職人を呼び寄せたのが起源。
現在でも、日本のお寺の釣鐘や仏像の9割が高岡銅器。有名なところだと比叡山延暦寺や成田山新勝寺の釣り鐘も。
あまり知られていないですが、高岡の大仏は奈良や鎌倉の大仏と並ぶ、日本三大大仏といわれています。私も子供の頃から実家の仏壇の仏具を目にしたり、また市街地に鋳物ストリートがあったりして、慣れ親しんできました。

鋳物文化がここまで長く続いたのは、伝統を大事に守るだけでなく、進化させるという発想が作り手にあったからだと思います。
その一つが錫。錫は製品化するのが大変で、昔はあまり使っていなかった。技術の進化とともに錫の工芸品が増えてきました。」


今回、高岡銅器の技術を活かした「錫」の工芸品がgentenのプロダクトでも登場します。

「やわらかく、簡単に形が変わるのが錫の一番の特性であり、素晴らしいところ。冷たいものは冷たく、温かいものは温かいまま、温度を保持する優れた機能も。
天然の革と同様、使えば使うほど味わいが出てくるところも愛らしいですね。」

富山の伝統の中で、錫の他に欠かせないのが「こきりこ節」。日本最古の民謡とされるこきりこ節は田植えにあたり、豊作を願って唄われていたそうです。


こきりこ節を踊る様子

時代の移ろいとともに唄われる機会の減っていった民謡。そこで伝統を身近なバッグという形に生まれ変わらせたのが「ささら」です。
「ささら」とはこきりこ節で使用される楽器のこと。その造形美を生かしながら、新しい価値を生み出しました。


富山のシリーズを目にした岡田社長は深く郷愁を感じたそうです。富山にゆかりのある方はどこか懐かしく、そうでない方は新たな発見を感じていただけるシリーズだと思います。



プロダクトを通して
生まれる会話に価値を感じる

47都道府県をテーマにしたプロダクトを生み出すことで、意外と知られていない、その土地の自然や伝統を伝えてゆく。そこには、他にはない特別な価値があると岡田社長は語ります。

「単純に、富山をテーマにしたプロダクトというだけでなく、そこから会話が生まれることに価値があると思っています。その土地の文化を発信、あるいは共有する。そこに生まれる共感や驚きといった心の動き。モノの背景を通じて、人と人が繋がったり、心を揺さぶられたり、そういった暮らしの中のうるおいが増えるといいなと思っています。

ファッションの使命は生活に彩りを与えること。単にものを売るのではなくて、お客様に夢を提供していきたいなと考えています。」

自然との共生、ファッションとエコロジーの融合を目指し、生まれたgenten。さらに伝統と革新をテーマに進化してきました。今回の富山のシリーズもその一環。
富山の雄大な自然や伝統に想いを馳せつつ、これからご紹介するシリーズをご覧いただければ幸いです。

2021年2月5日公開