日本伝統の手仕事を体験~手漉き和紙編~

ブランド創立20周年のgenten。「粋」をテーマに、あらためて日本の伝統文化や伝統の技を見つめています。そんな伝統の技にgentenスタッフがふれる第3弾。今回は、手漉き和紙作りを体験してきました。実はこの夏登場する20周年記念の新作シリーズ「20th ジャカード ハタ」に、和紙が素材のひとつとして用いられているという“縁”もあります。おうかがいしたのは、1653年創業、日本橋で300年以上も和紙を取り扱っている専門店「小津和紙」さんです。

※「20th ジャカード ハタ」は8月上旬発売予定。先行情報は、News「genten 20th Anniversary」、または店頭で配布中の20周年記念のフリーペーパー「genten journal」をご覧ください。(「genten journal」は無くなり次第終了)


長く受け継がれてきた繊細な技術で
世界中から注目される手漉き和紙

日本の手漉き和紙の技術は、2014年にユネスコ無形文化遺産に登録され、世界中から高い評価を受けています。その技術が中国から日本に伝わったのは、記録上では飛鳥時代です。「日本書紀」には、西暦610年の推古天皇の時代に、高句麗の僧によって日本に伝来したと記されています。

伝来当初は写経や戸籍に用いられた紙は、平安時代になると貴族や文人の使用が増えていきます。貴族や武家、幕府などの限られた人たちだけでなく、庶民の生活に紙が溶け込むようになったのは江戸時代のこと。全国で紙漉きが行われるようになり、障子紙や傘などの日用品のほか、浮世絵、錦絵、黄表紙などの印刷、出版も盛んになります。そして、明治初期に欧米から入ってきた「洋紙(西洋紙)」に対して、日本古来の紙は「和紙」と呼ばれるようになりました。

もともとは中国から日本に伝来した紙漉き技術ですが、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)など日本独特の原料を使用したり、ネリと呼ばれる植物性の粘りのある液を活用することで、より薄く均一で耐久性の高い紙作りを実現しました。紙漉きに使用する道具も改良・改善が重ねられ、長い歴史と多くの人の手によって手漉き和紙の技術は発展してきたのです。

「小津和紙」さんでは、日本の伝統文化である手漉き和紙を、より多くの人に身近に体験してほしいという思いから、2005年に体験工房を設立しました。現在の工房は3年前にリニューアルオープンしたばかり。過去に訪れた体験のお客様は、2歳から105歳と年齢の幅も広く、約半分は海外からのお客様だそうです。体験前には、和紙ができるまでの工程や原料、道具について、副店長の高木清さんが丁寧に説明してくださいました。


和紙の原料となる楮の原木の皮をはがしたところ。繊維が太くて強く、長いため、障子紙や左京用紙、版画用紙など、強度を求められる紙の原料として使われています。


剥ぎ取った楮の表皮を乾燥させたもの。これを流水に晒してから煮沸、あく抜きをした後、叩いてほぐしたものが和紙の原料となります。




紙漉きに使われる「スゲタ(簀桁)」と呼ばれる道具。木枠の底に、ごく細い竹ひごを絹糸で編んだスノコを敷いたものです。「スゲタはすべて道具作り専門の職人さんの手作りで作られています。とても手間と時間がかかるもので、これ自体が伝統工芸品なんです」(高木さん)

最初は失敗しながらコツを掴むことで
長く続く伝統文化の偉大さを実感

まずデモンストレーションで一通りの工程を見せていただいてから、防水エプロンを身に付けて、いよいよ手漉き和紙作りにチャレンジします。高木さんも同時に作業をしながらアドバイスをしてくれたので、初心者でも安心してできました。

■紙料液を混ぜる


漉き舟と呼ばれる水槽の中には、和紙の原料の楮とネリ(トロロアオイが原料の粘りのある液)が溶かした水(紙料液)が入っていて、紙を漉く前に棒でよく混ぜます。

■スゲタで紙料液をすくって紙を漉く


スゲタを水面に垂直に沈めて、紙料液をすくってサッと流します。


もう一度紙料液をすくい、スゲタを前後に20回振って繊維を動かし、余分な水を捨てます。


再度、紙料液すくって左右に20回振って捨て、さらにもう一度すくって前後に20回。最後にもう一度、すくい上げてサッと捨てたら終了。「スゲタを前後左右に揺り動かすことで、繊維同士がしっかりと絡み合い、密度の高い丈夫な和紙ができます」(高木さん)

■最初はこんな失敗も


スゲタを水に沈める角度や、水を捨てるときのタイミングによって紙がよれたり、シワができたりします。納得のいく出来になるまでgentenスタッフも何度かチャレンジしました。

■スゲタの枠を外して水切りする


漉く作業が終わったら、スゲタの枠を外して水を切ります。この段階での和紙は水分をたっぷりと含み、プ二プ二と弾力のある手触りです。

■乾燥用シートに移動させる


和紙を乾燥させるためのシートにスノコごと移動。限られたスペースの工房で、職人同士がぶつからないように、スノコは頭の上を通して移動させるのが基本だそう。

■和紙をスノコから外す



和紙をスノコからはがしてシートに移します。手前から少し水をかけ、指圧するように押すことで、和紙がはがれやすくなります。迷わずに一気にはがすのがコツ。

■和紙の水分を取り除く


専用の乾燥機を使って和紙の水分を取り除いていきます。

■ホットプレートで完全に乾燥させる


加熱したステンレス板に和紙を貼り付けて、中心から外側に向かって刷毛で空気を取り除きながら乾燥させます。空気が入ると和紙に凹凸ができてしまうので手早く行うのがポイント。

■手漉き和紙の完成


完全に乾燥した和紙を注意深くホットプレートからはがせば、世界にひとつしかない手漉き和紙の出来上がり。記念に「小津和紙」さんの落款印とエンボスを入れて完成です。

■落水紙作りも体験しました


個性的な風合いの「落水紙」作りも体験させていただきました。漉いた和紙にシャワーで水滴をかけることで、紙に水玉のような模様がつきます。

手漉き和紙作りを実際に体験して、高木さんがデモンストレーションのときにおっしゃっていた「紙漉きは簡単だけど、難しいんですよ」という言葉の重みを肌で感じることができました。工程はとてもシンプルですが、繊細で丁寧な手仕事を重ねてきくことで、1枚の強くて美しい和紙が生まれる手漉きの技術。また工房を訪ねて上達したいと心に誓ったgentenスタッフでした。

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金継ぎ編
江戸切子編




今回、手漉き和紙の指導と館内の案内をしてくれた、副店長の高木清さん。手漉き和紙の歴史や魅力を軽快な語り口で教えてくれました。

全国の職人が手掛けた和紙を取り扱い
ギャラリーや史料館なども充実

「小津和紙」さんの店舗では、日本全国で作られた和紙を取り扱っています。書道用紙、日本画、水墨画や版画用紙、工芸用紙などをはじめ、インテリアグッズやご朱印帳、便箋、封筒、はがき、折り紙などの小物まで、なんと3000種類近い品揃えで、ほとんどが職人の手作りだそうです。


2階はギャラリー、3階は史料館です。江戸時代に「小津和紙」さんが紙商を開業して以来の歴史を、貴重な史料展示とともに学ぶことができます。職人による紙漉き動画を見ることもできるので、和紙を愛する人なら、1日中いても飽きない空間です。


店舗情報
小津和紙
住所:東京都中央区日本橋本町3-6-2 小津本館ビル
電話:03-3662-1184
営業時間 :10:00〜18:00
定休日:日曜・年末年始
http://www.ozuwashi.net/