日本伝統の手仕事を体験 ~金継ぎ編~

今年、ブランド創立20周年を迎えるgentenのテーマは「粋」。あらためて日本の伝統文化や伝統の技を見つめています。そんな伝統の数々にgentenスタッフがふれる新企画。今回は、新高円寺に工房を構える「手仕事屋 久家」さんで「金継ぎ」を体験してきました。

偶然できた器の欠けや割れに
新たな価値を見出すのが金継ぎの魅力

金継ぎは、金繕い、金直しとも呼ばれて、割れたり、欠けたりした器を修復する日本の伝統的な技法です。漆を使って欠けた部分を繕い、金粉を蒔いて仕上げをすることで、継ぎ目がまるで新たな模様のようになり、世界にひとつしかない特別な器になります。近年、壊れた器を自分の手で直して、長く使い続けたいという人が増えたことから、金継ぎの教室やワークショップも増えています。

今回お世話になる「手仕事屋 久家」の久家義一郎さん、淑子さんご夫婦は、50年以上陶芸家として活動されています。器の修理を依頼される機会が増えたことから、本格的に金継ぎを始めてもう35年だそうです。
「金継ぎが始まったのは、茶の湯が盛んだった安土桃山時代だといわれています。金継ぎで修復した器の傷跡の部分は、景色と呼ばれます。偶然できた欠けや割れ、ヒビを隠さずに金や銀で飾って景色と呼び、新たな美しさや価値を見出すという日本独特の美意識です」

久家さんの工房には、日本の伝統文化に関心のある外国人が多く訪れるそうです。
「金継ぎ体験は7割以上が外国の方ですね。皆さんSNSやホームページを見て、来てくれるんです。ご自分で金継ぎされた器をすごく喜んで持って帰られます」

本漆を使った本来の金継ぎは、湿度の高い日本の気候ならではのもの。湿度の少ない国に持って行くと修復した部分があっけなく取れてしまうこともあるとか。海外からのお客さんが増えたことで、久家さんは、長い旅路を経て、どんな気候の国に持ち帰っても金継ぎの状態が長持ちするように、手に入りやすく、安心できる材料を選んでいます。本漆ではなく、カシュ―の樹液が原料の新漆を使用しているので、かぶれやすい人も安心です。



漆と金を使って欠けを丁寧に修復。
道具を揃えれば家でもできます

たくさんの作品や道具が並ぶ久家さんの工房では、最初に奥様の淑子さんお手製のケーキでティータイム。ご夫婦の仲の良さが伝わってくるような楽しい会話でリラックスしたら、いよいよ金継ぎの工程に挑戦します。道具さえ揃えれば、自宅でも手軽にできる方法を教わりました。


まずは修復する器選び。金継ぎ体験の場合、修復する器は久家さんが用意してくれます。渡邊は明治時代の磁器、伊万里の湯のみをセレクト。


選んだ器はこれ。縁の部分が欠け、そこから縦にうっすらとヒビが入っています。


今回使用する道具。接着剤、エポキシパテ、金属用やすり、耐水サンドぺーパー(800)、新うるし、新うるし薄め液、金粉、銀粉、久家さんお手製の筆。

■工程1:欠けた箇所にパテを塗る



器の欠けた部分をパテで埋めていきます。少し盛り上がるくらいに塗るのがコツ。

■工程2:パテで埋めた箇所をやすりで磨く


パテが乾いて固まったら、金属用やすりで磨いて余分なパテを削っていきます。「磁器はとても固くて丈夫なので、やすりが当たっても傷つかないんです。陶器の場合はマスキングテープを周囲に貼って保護することも」(久家さん)


パテと器が一体になり、器の表面がなめらかになった状態。

■工程3:耐水サンドペーパーで磨いてさらになめらかに


目の細かい耐水サンドペーパーに水をつけながら修復部分を磨き、表面をさらになめらかに整えます。

■工程4:修復箇所に金粉入りの漆を塗る


パテが乾いたら漆を塗っていきます。本来は茶色の漆ですが「手仕事屋 久家」では漆に金粉を混ぜたものを使います。より美しく修復していただきたい、時間が経って修復した表面の金粉がはがれてしまっても金色が残るように、という久家さんの温かい気持ちが伝わってきます。


パテをすべて覆うように1mm外側を、外側から内側に向かって慎重に漆を塗ります。ヒビの部分はなぞるように。この段階でフェイクのヒビを描く方もいるのだとか。初心者でも扱いやすい極細の筆は久家さんの手作りです。


「高台の内側に、お名前やイニシャル、マークなどを入れるとより愛着がわきます」とアドバイスをいただき、gentenの頭文字を描きました。

■工程5:漆を塗った部分に金粉をかける


最後に金粉をかける作業をします。パテに筆が触れないように金粉をのせて、余分な粉を払います。この工程を経ることで、落ち着いた深みのある金色に仕上がるそうです。
体験はここまで。あとは自宅に持ち帰り、2日間乾燥させたら、水で金粉を洗い流して、2週間過ぎたら使用可能です(電子レンジ・食洗機は使用不可)。

■金継ぎした器が完成


金粉を乾燥させて洗い流して完成。上品で落ち着いた金色に仕上がりました。

今回の体験を通して、壊れた器を直すだけでなく、新しい美しさや、自分なりの味わいを加えていけるところが金継ぎの楽しさなのだと実感。暮らしに寄り添った大切なものを自分の手で直して、さらに愛着を深めることができる金継ぎは、「愛着のある暮らし」というgentenのコンセプトにも通じます。久家さんご夫婦の温かいお人柄に触れながら、手仕事に没頭するという、贅沢な時間を過ごすことができました。


今回、教えてくれたのは、陶芸歴50年、金継歴35年という久家義一郎さんと淑子さん。金継ぎの他、陶芸、絵画、楽焼、創作アクセサリーなどの教室も開催しています。

店舗情報
手仕事屋 久家
住所:東京都杉並区成田東1−34−10
電話:03−6761−8880
開催日:水曜・木曜・土曜(要予約)
http://www.teshigotoya-kuge.com/
https://www.instagram.com/yoshikokuge/