蔵前めぐり「菓匠 榮久堂(えいきゅうどう)」

春日通りを歩くたびに、気になっていた趣き深い店構えの「榮久堂」は1887年創業。蔵前の地で130年以上続いている和菓子店です。店内のショーケースには、色とりどりの季節の上生菓子や栗蒸し羊羹、どらやき、お饅頭などが並びgentenスタッフもつい目移りしてしまいそう。4代目のご主人、永見伸之さんにお話を伺いました。


明治の創業以来幅広い層に愛される
吟味された素材を昔と同じ手作りで。

「榮久堂」には、ひっきりなしにお客さんが訪れます。お母さんと一緒にお菓子を選ぶ幼稚園の制服姿のお子さんから、お気に入りをサッと選ぶ年配の方などさまざまで、お店が地域の人に愛されている様子が伝わってきました。「うちのお客さまは、未就学児から90代まで幅広いんです。孫の世代まで何代にも渡って買いに来てくださっている方もいるんですよ」

店頭に並んだ季節の生菓子の美しさに、gentenスタッフの目も思わず惹き付けられました。手のかかる工程のすべてを職人が担っているといいます。「うちは包装に使う以外の機械がないから、昔ながらのやり方で普通に作っているだけです」と永見さんはいいますが、吟味された四季の素材、繊細で色彩豊かな意匠が盛り込まれたお菓子からは、伝統と新しさの両方を感じます。



春を感じられる和菓子の一つ「草餅」は、やわらかく芽吹いた生の葉を一つ一つ手作業で摘んで、茎からより分けるところからお店で行います。色鮮やかでさわやかな香りが口いっぱい広がる、この季節だけの和菓子です。


一面に広がる菜の花畑を想像させる「菜の花」も春ならではのお菓子です。



ハートのような形の「猪の目饅頭」。猪の目とはイノシシの目を模した古代からの文様のひとつで神社仏閣の飾り金具にも用いられています。ピンクの部分は栗あん、白い部分がこしあん、と手の込んだ作りで、1つで2種類の味が楽しめます。




発売当初から伝わる製法で作られる
懐かしい味わいの「ソフトバター」

浅草銘菓として幅広い世代に人気なのが、榮久堂の「ソフトバター」。ふわっとやわらかなケーキ生地に、ほんのり塩気を感じられるバタークリームがサンドされた、軽やかでノスタルジックな味わいです。永見さんのお父さんに当たる先代が考案したもので、60年前から変わらず作り続けられています。

「売り出したころは今よりもバターが貴重品だった時代で、当時は木箱に入ってお店に届いていました」と永見さん。お店を訪れた年配のお客さんが「これ、子どものころに食べていました。懐かしい!」とおっしゃることも多いのだそう。ソフトバターと同じ生地に、オレンジの爽やかな、かすかな苦みが凝縮されたマーマレードをサンドした「ソフトマーマレード」もたまりません。


発売当初から変わらないという、レトロなパッケージも魅力の一つです。


「ソフトバター」の他にカステラやフルーツケーキ、マドレーヌなど洋菓子のラインナップも豊富。



浅草や蔵前はやっぱり職人の街
変わらぬ伝統と新しい風が面白い

この土地で生まれ育って、先祖代々続くお店を営む永見さんにとって、蔵前という街はどんな印象なのでしょうか。「この街はやっぱり職人の街だね。みんな自分の家にいながら手を動かして仕事をしている感じ。あとはおもちゃ問屋の街というイメージかな。最近は若い人や新しいお店も増えてきて注目を集めているみたいだけど、面白い街だと思いますよ」

帰り際に、先代のご主人が趣味で編集されていたという冊子『あま味』を見せていただきました。ページを開くと、幸田文さん、山本一力さん、瀬戸内寂聴さんをはじめ、名だたる作家が寄稿しています。「父は時間さえあれば店の奥で好きな作家さんや著名人の方に、執筆をお願いする手紙を書いていましたね」。今でも在庫のある号なら店頭でいただけるそうです。


『あま味』は第37号まで発行されました。創業当時のお店の写真も掲載されています。

伺ったのが雛祭りの直前ということもあり、店内は雛祭り用のお菓子でいっぱい! どら焼きや豆大福、最中などの定番商品以外は、季節ごとに店頭のお菓子も入れ替わっていくそうです。gentenスタッフも季節ごとに訪れたくなりました。


お客さまが待つスペースには、さまざまな冊子が用意されています。


雛祭りの季節にしか出会えない雛菓子。ねりきりを使い、繊細な手仕事でお寿司を表現。



蔵前めぐりのその他の記事はこちら
salvia(サルビア)
SyuRo(シュロ
MAITO/真糸(マイト)
結わえる 本店
KONCENT 蔵前本店
カキモリ 第1回
カキモリ 第2回
SOL'S COFFEE ROASTERY(ソルズコーヒー ロースタリー)
NEWOLD STOCK(ニューオールドストック)
Splendor Coffee(スプレンダーコーヒー)
ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前


店舗情報
菓匠 榮久堂
住所:東京都台東区蔵前4-37-9
電話:03-3851-6512
営業時間:9:00~18:00
定休日:火曜日(不定休あり)