植物のある暮らし 第4回「秋の七草」

日々の暮らしにうるおいをくれる、瑞々しい花と緑。うつろう季節を、肩肘をはらずに楽しめる、花や植物のいろいろ、教えます。秋を迎えた第4回は、秋の七草やりんどうを花材に選びました。


秋の句に思いを馳せて
秋の花を生ける愉しみ。

春の七草があるように、秋にも七草があることをご存知でしょうか。春の七草が、食べて体を労るものであるのに対し、秋の七草は季節の花の美しさを愛でるものなのが、その大きな違いです。

秋の七草のいわれは、万葉集に詠まれた、山上憶良の2首の句にあります。
「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」
「萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」

2首目の句に詠まれているように、秋の七草は、萩、すすき、葛の花、女郎花、藤袴、そして朝貌と詠まれている、桔梗のことを言います。

秋の野山に咲くたおやかな花々は、ただ美しいだけではなく、薬効があるなど実用的な面でも用いられており、いにしえの人々がその暮らしの中で、七草を尊んでいたことがよくわかります。秋の七草を現代の暮らしの中へ。生けるときに気をつけたいちょっとしたことを、今回も、新宿御苑「リリー オブ ザ バレイ サロン ド フルール」の橋本美穂さんにお伺いします。


花を長持ちさせるための
基本をしっかりおさえる。

「食卓に小さく生けるのに便利なのが、オアシスを使う方法。オアシスを使う上で、気をつけていただきたいことがあります。それは、水の吸わせ方。正しい方法で水を吸わせないと、お花が保たなくなってしまいます」と橋本さん。

オアシスは使いたい大きさにカットし、洗面器などの容器に水を入れ、その中に浮かせて沈むのを待ちます。オアシスをカットするのは、パン切り包丁がおすすめだそう。

左が正しい方法で水を吸わせたもの、右は水道の下で流水をあてたもの。流水では中に水が通っていないことがわかります。

「よく、オアシスだとお花がもたなくて、とおっしゃる方がいるのですが、どうやって水を吸わせているかお話を伺うと、流水のことが多いです。きちんと水の中で沈むまで吸水させたものだと、花保ちもいいですよ」

オアシスは土台でもあるので、隠すところが増えないように小さくカットするのがコツ。今回は折敷や塗りのトレーにのせて、食卓で楽しめるような大きさに生けたいので、邪魔にならない大きさに切り、水を吸わせます。



お花を綺麗に見せたいなら
上手に隠すことから。

まず、トレーにオアシスをセットして、最初に花の高さを決めます。背景になるパニカムを、生けたい高さに合わせて切り、オアシスに生けます。

「土台のオアシスは生けた植物の、残った葉などを生けて隠します。今回はバラの葉を使いますが、ご家庭で育てているアイビーなどでもいいと思います」

上手に隠すことで主役の花も引き立つ、基本の作業。しっかりおさえておきましょう。



さあ、生けていきましょう。
順を追ってご紹介。

主役のりんどうを短く切ります。長く切って生けてもいいのですが、食卓で楽しむために、ここは思い切って短く。

「りんどうは、上に向かってたくさん花がついていますから、先の方を短く切ることで2本に増やすような感覚で。残った部分も無駄にせずにあとで生けましょう」

りんどうは秋の七草ではありませんが、疫病草(えやみぐさ)と呼ばれるほど薬効が高く、古来より親しまれている花のひとつ。秋の山野草の代表格でもあります。


 りんどうをパニカムの手前に挿して、正面を決めます。
パニカムは、すすきと同じイネ科の植物。もちろんすすきを使ってもいいでしょう。


 秋の七草のひとつ、女郎花は、その花の美しさが美女をも凌ぐという説もあるほど、優雅で美しい花としていにしえの人々に愛された花。
主役のりんどうの紫とは補色でもあるので、生けることで食卓がぱっと華やぎます。

ここまででも清楚な佇まい。

藤袴も短く切って、りんどうの根元に。藤袴の茎葉には、桜餅のような香りがあり、中国では芳香剤として使われていたと言われています。

残しておいたりんどうを長めに切って生け、奥に吾亦紅を生けて、広がりを出したら出来上がり。

和花の場合は正面を決めて生けるので、背中側には花を生けませんが、洋花のように背中をつくってもいいかもしれません。そこはお好みで。



残った花も忘れず生けて
いのちを愛おしむ。

残った花は、簡単に投げ込みで生けても。素朴で野趣あふれる雰囲気が秋を感じさせてくれます。

「和花を生けるときのコツは、高さを揃えないこと。高さを散らしてあげることで空間が生まれ、奥行きが出ます」

多少のコツはあるけれど、難しく考えずにさり気なく。おさえておきたいのはやはり基本的なこと。いのちを愛おしむことが、長く愛でることにも繋がります。


橋本美穂(はしもと・みほ)

第一園芸ホテルオークラ店勤務の後、ヒビヤフラワーアカデミーでのインストラクターを経て2003年独立。リリー オブ ザ バレイ サロン ド フルール代表。

【店舗情報】
東京都新宿区新宿1-3-2 サンクチュアリ新宿御苑アネックス1F
03-6808-2555
営業時間 平日:12:00~19:00、土日祝:11:00~17:00
定休日:月曜
公式サイト:http://www.suzurankai.com

植物のある暮らしのその他の記事はこちら
第1回「桜」
第2回「すずらん」
第3回「カーネーション」